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大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)75号 判決 1997年7月18日

大阪市鶴見区今津中三丁目六番二七-一〇一八号

原告

東條文龍

右訴訟代理人弁護士

山川高史

大阪市城東区中央二丁目一三番二三号

被告

城東税務署長 吉田公也

右指定代理人

川口泰司

西浦康文

斎藤恒明

篠塚孝之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の平成四年分の所得税について、被告が平成六年三月一〇日にした更正処分のうち、総所得金額一五四四万六〇九〇円、課税長期譲渡所得金額三八九万一〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも後記の裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、内科の医院を営む医師であり、不動産貸付もしている青色申告者である。

2  原告は、平成五年三月一二日、原告の平成四年分の所得税について、総所得金額を一四七七万八六六二円とする確定申告をしたが、被告の慫慂に従い、平成六年一月二八日、総所得金額を一五四四万六〇九〇円とする修正申告(以下「本件申告」という。)をした。

3  被告は、平成六年二月二三日、原告に対し、本件申告に係る税額につき、過少申告加算税の学を二万六〇〇〇円とする賦課決定処分をした。

4  被告は、平成六年三月一〇日、原告の平成四年分の所得税について、総所得金額を三二二四万六〇九〇円(事業所得の金額三五四四万六〇九〇円、不動産所得に係る損失の金額三二〇万円)、課税長期譲渡所得金額三八九万一〇〇〇円及び納付すべき税額を五七六万〇三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税の額を九六万〇五〇〇円とする過少申告加算税の賦課決定処分(以下、併せて「本件処分」という。)をした。

5  原告は、平成六年四月二五日、国税不服審判所長に対し、本件処分について審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成七年六月二六日、本件処分を一部取り消し、総所得金額三二一四万六〇九〇円(事業所得の金額三五三四万六〇九〇円、不動産所得に係る損失の金額三二〇万円)、課税長期譲渡所得の金額を三八九万一〇〇〇円、納付すべき税額を五七一万〇三〇〇画、過少申告加算税の税額を九五万三〇〇〇円とする裁決をし、右の裁決書謄本は平成七年七月二五日、原告に送達された。

6  しかし、本件処分は、原告の所得金額を課題に認定した違法なものである。

よって、原告は、本件処分(ただし、前記の裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の事実は認める。

2  同6の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の平成四年分の総所得金額及び課税長期譲渡所得金額は、次のとおりとなる。

(一) 総所得金額 三八五四万六〇九〇円

(1) 事業所得の金額 三五三四万六〇九〇円

(2) 不動産所得に係る損失の金額 三二〇万円

<1> (収入金額)賃貸料 一六〇万円

大阪府東大阪市横枕西一三六番の土地(以下「本件土地」という。)を平成四年一月から同年四月まで月額四〇万円の賃貸料で中尾に貸地した賃貸料である。

<2> (必要経費)地代家賃 四八〇万円

原告が、平成四年一月から一二月まで、東海不動産に支払った本件土地の地代二一六〇万円(月額一八〇万円の一二か月分)のうち、後記のとおり、被告が所得税法一五七条一項一号により、その認めるところにより計算した金額である。

(二) 課税長期譲渡所得の金額 三八九万一〇〇〇円

2  不動産所得に係る損失の金額の内容は、次のとおりである。

(一) 原告は、本件土地を所有し、昭和六一年一〇月一七日から、中尾建材商会こと中尾邦弘(以下「中尾」という。)に対し、月額三三万円の地代(平成二年一〇月一八日に月額四〇万円に増額)で貸し付け、中尾は、本件土地を資材置場、駐車場、プレハブ事務所の敷地として使用していた。

(二) 原告は、平成四年一月一日、本件土地を有限会社東海不動産(以下「東海不動産」という。)に譲渡し、東海不動産から本件土地を月額一八〇万円で賃借し(以下「本件賃貸借」という。)た。

(三) 原告は、平成四年一月以降、本件土地を中尾に従来どおりの約定で転貸していた。

(四) 東海不動産は、原告がその代表取締役であり、かつ、原告が全出資口数を保有する同族会社(法人税法二条一〇号参照)であった。

(五) 中尾は、原告との間で本件土地の賃貸借契約を合意解除し、平成四年四月三一日本件土地を原告に明け渡した。

(六) 原告は、中尾から平成四年一月分から同年四月分までの本件土地の賃料として合計一六〇万円を受領し、東海不動産に同年一年分の賃料合計二一六〇万円を支払った。

(七) 本件土地の賃料は、平成四年当時、月額四〇万円が相当であった。

(八) 原告は、平成四年分の不動産所得について、中尾から取得した賃料合計一六〇万円につき東海不動産に支払った二一六〇万円を必要経費として二〇〇〇万円の損失を経常して、本件申告をした。

(九) 被告は、東海不動産への賃料の支払は、原告の同族会社(法人税法二条一〇号)への行為であって、純経済人の行為・計算としては著しく不合理・不自然であり、これを全額不動産所得の必要経費と認めると原告の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認め、その支払金額のうち適正な地代である月額四〇万円を超える部分を右の必要経費に算入しないことにし(所得税法一五七条一項所定の計算の一部否認)、その旨理由を付記して本件処分をした。

3  以上のとおり、原告の平成四年分の総所得金額は三二一四万六〇九〇円、課税長期譲渡所得金額は三八九万一〇〇〇円であり、本件処分(審査裁決により一部取り消された後のもの)は、いずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張1の(一)(2)の不動産所得に係る損失の金額は争う。

2  同2の(一)(二)(八)の事実は認めるが、(三)ないし(七)の事実は否認し、(九)は争う。

原告が平成四年一月一日以降同年四月末日まで中尾に月額四〇万円の賃料で賃貸していたのは、本件土地ではなく、中尾から購入した本件土地上の建物である。

3  東海不動産に対する本件土地の地代(月額一八〇万円)は、次のとおり、権利金の収受を行わず借地権を設定する場合の適正額である。

(一) 本件土地付近においては借地権を設定するに際して権利金を収受する慣行が存する。

(二) しかし、原告は、平成四年一月一日、マンション等を建築する目的で、東海不動産との間で、権利金を支払わないで本件土地を賃借することになった。

(三) 原告と東海不動産とは、原告に本件土地の借地権を設定するに当たって、法人税法三七条によって敷金相当額を贈与したものとして課税されないように、法人税法施行令一三七条に従い、権利金の収受に代えて、本件土地の更地価格の六パーセント(法人税基本通達一三-一-二、平成元年三月三〇日直法二-二)に当たる一八〇万円を「相当の地代」とすることを合意した。

4  被告は、東海不動産の法人税の課税において月額一八〇万円の地代収受を前提とする税額をそのままにしておきながら、原告の不動産所得についてのみ東海不動産に対して支払った地代のうち月額四〇万円を超える部分を必要経費として計算することを否認しており、その処理は矛盾している。

理由

一  請求原因1ないし5の事実、被告の主張2の(一)(二)(八)の事実は、当事者間に争いはない。

二  被告の主張1の(一)の(1)の事業所得の金額、(二)の課税長期譲渡所得は、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

三  前記一、二の事実並びに証拠(甲一ないし六、乙一ないし七、九ないし一一及び原告本人)及び便巣の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、原告本人尋問の結果中これに反する部分は採用できない。

1  原告は、昭和六一年七月ころ、三和銀行から約三億円を借り入れ、本件土地を代金三億一五〇〇万円で購入した。

2  原告は、昭和六一年一〇月一七日、本件土地を中尾に賃貸するに際し、地代については、不動産業者に相談した上、中尾との間で月額三三万円と決定した。原告から本件土地を賃借した中尾は、本件土地上に小さなプレハブ建物を建て、これを資材置場として使用していた。

3  原告は、本件土地購入後、三和銀行からの借入金約三億円について、毎年、約二〇〇〇万円の利息金を返済していたが、所得税の申告に際し、それを「借入金利子」として不動産所得に係る必要経費に計上していた。その額は、平成元年分で約一七〇〇万円、平成二年分で約二五五〇万円、平成三年分で二三二四万円であった。

4  原告は、昭和六三年六月一〇日、自ら全額出資して、有限会社である東海不動産を設立し、自ら代表取締役に就任した。東海不動産の取締役は、原告のほか、その弟の智彦であったが、その後、平成四年七月三一日、智彦が辞任して、智彦の妻と原告の別の弟の妻(千恵)が就任した。

5  原告は、中尾との間で、平成二年一〇月一八日、本件土地の地代を月額四〇万円に増額する旨合意した。

6  平成三年三月法律一六号による改正後の租税特別措置法四一条の六(平成六年三月法律二二号により改正後の四一条の四と同じ。)の施行により、平成四年分以後の不動産所得の算定において、賃貸の用に供する土地等を取得するために要した負債がある場合であっても、その負債の利子に相当する金額を必要経費とすることができないことになり、原告も平成三年中にこれを知った。

7  原告は、平成四年一月一日、本件土地を代金三億二〇〇〇万円で東海不動産に売却した。右の売買代金については、現実に金銭のやりとりをするのではなく、原告が同額の金員を東海不動産に貸し付けたことにして、会計上の処理だけで済ませた。

8  原告は、同日、東海不動産から、賃料月額一八〇万円、期間平成四年一月一日から平成五年一二月三一日まで、敷金なしの約定で、本件土地を賃借し(以下「本件賃貸借」という。)、中尾に対し、月額四〇万円で従来どおりの約定で本件土地を転貸した。中尾は、従来どおり、本件土地を材木置場、プレハブ事務所の敷地として使用し、原告もそのことは十分承知しており、原告と東海不動産との間の賃貸借も、右のような利用を目的としたもので、建物所有を目的とした借地権の設定ではなかった。

9  平成四年当時、本件土地を駐車場や資材置場に利用する目的で賃貸する場合の適正賃料は、月額四〇万円程度が相当であった。

10  原告は、平成四年中に、中尾から同年四月分までの本件土地の賃料合計一六〇万円を収受し、東海不動産に対し、本件土地の地代として合計二一六〇万円を支払った。

11  原告は、中尾との間で本件土地の転貸借契約を合意解除し、中尾は、平成四年四月三〇日本件土地を原告に明け渡した。原告は、その後、そのまま本件土地を放置し、平成五年ころ、本件土地上に鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建一一三・六二平方メートルの車庫を建て、平成六年六月一〇日、その旨の建物保存登記手続をした。

12  原告は、平成六年一月二八日、平成四年分の不動産所得につき、中尾から収受した一六〇万円の収入金額に対し、東海不動産に支払った二一六〇万円全額が必要経費に該当するとして、不動産所得に係る損失を二〇〇〇万円として被告に対し、本件申告をした。

13  被告は、東海不動産への賃料の支払は、原告の同族会社(法人税法二条一〇号)への行為であって、純経済人の行為・計算としては著しく不合理・不自然であり、これを全額不動産所得の必要経費と認めると原告の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認め、その支払金額のうち適正な地代である月額四〇万円を超える部分を右の必要経費に算入しないことにし(所得税法一五七条一項所定の計算の一部否認)、その旨理由を付記して本件処分をした。

四  以上の事実関係によれば、原告は、租税特別措置法の前記の改正後も、不動産所得の必要経費として多額の金額を計上するため、敢えて、平成四年一月一日、自ら代表取締役を務める同族会社である東海不動産に本件土地を譲渡し、これを東海不動産から月額一八〇万円で賃借してその賃料を東海不動産に支払い、従前から本件土地を原告から賃借して資材置場に利用していた中尾に月額四〇万円というそれまでどおりの地代で、同年四月末まで引続いて同地を転貸して、その賃料収入を得たものであって、原告と東海不動産との間のこのような地代の支払は、純経済人の行為としては著しく不合理・不自然なもので、東海不動産に支払った右の地代全額を原告の不動産所得の必要経費とすると原告の所得税の負担を不当に減少させる結果になることは明らかである。また、東海不動産が法人税法二条一〇号所定の同族会社に該当することも明らかである。

そうすると、本件土地を駐車場や資材置場として賃借する場合の適正地代は、平成四年当時月額四〇万円であったのであるから、原告の本件申告につき、所得税法一五七条を適用して、この地代のうち月額四〇万円を超える部分を必要経費に算入する計算を否認した被告の措置は適法であって、原告の平成四年分の不動産所得に係る必要経費の全額は、右措置により、被告の主張のとおり四八〇万円になったというべきである。前記二の事実関係によれば、原告の平成四年分の不動産所得に係る収入金額は一六〇万円であるから、原告の不動産所得に係る損失の金額は三二〇万円となる。

五  なお、原告は、東海不動産から本件土地を賃借したのは地上にマンション等の建物を建築する目的であったもので、原告は東海不動産との間で借地権を設定しながら、権利金を収受しないことにし、東海不動産は、法人税法施行令一三七条、法人税基本通達一三-一-二等に従って、権利金の収受に代えて、本件土地の更地価格の六パーセントに相当する一八〇万円を「相当の地代」として収受することにしたもので、右地代額は相当である、と主張する。

しかし、原告と東海不動産との間の賃貸借契約が、原告主張のようにマンション等の建築を目的とするものであったことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、材木置場及びプレハブ事務所の敷地として使用することが目的であったこと、そして当時の適正地代は月額四〇万円であったことは前記認定のとおりである。この点についての原告の供述内容も、マンションと診療所を建築する目的であったといいながら、マンション建築の構想も資金繰りも具体的にはできていなかったというもので、到底採用し得ない。

六  なお、所得税法一五七条は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやていことに鑑み、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合にそれを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に与えたものである。言い換えれば、その限りで課税要件の変更の権限を税務署長に与えたものである。ただし、その効果は、それ以外に、私法上の法律関係に影響を与えるものでないことはもちろん、同族会社に対する法人税法上の法律関係にも何らの変更を生じさせるものでもない。また、同条の要件を判断する際に、同族会社の法人税法上の法律関係と必ずしも整合性を保つように判断しなければならないものでもないというべきである。

七  以上のとおりであって、本件処分(ただし、前記の裁決により一部取り消された後のもの)は、いずれも適法である。原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用につき行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 北川和郎 裁判官小林康彦は海外出張中のため署名・押印することはできない。裁判長裁判官 八木良一)

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